名古屋地方裁判所 昭和55年(ワ)2606号 判決 1988年4月21日
愛知県<以下省略>
原告
X
右訴訟代理人弁護士
内藤昌裕
同
浅井岩根
名古屋市<以下省略>
被告
ダイワ通商株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
肥沼太郎
主文
一 被告は原告に対し、金六九五万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年一〇月二三日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は五分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮りに執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
一 被告は原告に対し、金一七〇五万八〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行の宣言
(被告)
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
(原告の請求の原因)
一 訴外株式会社共立商会は名古屋繊維取引所における商品取引員として各種原糸の売買及びその媒介、取引を業とする会社であったが、昭和五六年三月二日、被告に吸収合併されたものである。
二 原告は大正一三年○月○日生れで、郵便局会計課に四〇年間勤務し、昭和五四年九月、冠不全、自律神経失調症の病気療養のため、依願退職し、退職金合計金一四七〇万円を得、これと年金で生計を維持している者で、商品先物取引の経験はなかったものである。
三 被告会社では、昭和五五年一月当時、訴外B及び訴外Cが営業部営業課長、訴外Dが営業部長、訴外Eが営業部次長、訴外Fが管理統轄本部長としてそれぞれ在職していた。
四 原告は、昭和五五年一月一一日、自宅において、Bの訪問を受け、同人の積極的な勧誘により、名古屋繊維取引所の定める受託契約準則に従い、同取引所に上場される綿糸の先物取引を行うことを被告に委託することとし、その後、原告は、同月一四日から同年五月二八日までの間、被告に注文して別紙売買一覧表記載のとおり合計綿糸九〇〇枚の売買取引(以下本件取引という)を被告に委託して行ったとされ、また、被告に対し、本件取引に伴う委託証拠金として、別紙委託証拠金受払一覧表預り額欄記載(以下本件受払一覧表という)のとおり各金員の合計金一八九一万二〇〇〇円を預託し(但し番号1は一月一四日、同6は二月一三日、同10は三月一日、同11の内金一三〇万円は三月一一日である。)、更に被告は本件取引により生じた差金及び預り金のうちから、本件受払一覧表記載のとおり振替預り及び振替充当したとしており、原告は被告から、昭和五五年四月四日に金五〇万円、同月三〇日に金二〇〇万円の返還を受けた。
五 ところで、本件取引の経過は次のとおりである。
1 Bは、昭和五五年一月一一日、原告宅を訪問した際、原告に対し、新中京繊維日報などを示しながら、原告が「郵便局を退職して、病気療養中だし、定額貯金に預けてあって余裕資金はないからできません。」と断ったにもかかわらず、「これからも綿糸は値上りする、二〇枚、金一一〇万円の資金内であれば危険は少ないから。」と、積極的に買を勧めてきたので、自分の意思で取引をすればよくいつでもやめられるとのことであったので、慣れるまでは買だけで取引をする旨念を押して、二〇枚の範囲内で買うこととし、翌一月一二日、原告方を訪れたBに、署名押印した承諾書、印鑑票と共に現金一一〇万円を預託し、その際Bから商品取引委託のしおり、受託契約準則の交付を受けたが、それらについては全く説明がなかった。
2 Bは、同月一四日、原告に対し、本件取引1の建玉をする旨連絡をし、同月二一日、Bの勧めにより、本件取引1の仕切をしたが、同日、Cから電話で本件取引2の建玉を報告してきたものの、原告は何かの手違で電話がかかってきたと思っていたところ、同月二二日になって、Bから、「追証金として金四〇万円用意しておいて下さい。」との連絡をしてきたので、無断建玉は承知していない旨述べ、原告方へ事情の説明に来るように求め、同月二三日、原告方を訪れたBに対し二時間以上追及したが答えず、追証を入れて待ってくれの一点張りで追証を入れないと最初に預けた金一一〇万円もなくなってしまうと思い、仕方なく金四〇万円を渡したが、更に翌一月二四日、Bから電話で、「追証として金八〇万円用意しておいて下さい。」と連絡してきたので、これを断ると、その夜、Bが訪れ、前日同様のやりとりを二時間以上にわたって続けたが、らちがあかず、とうとう根負けして金八〇万円を渡したもので、その際、Bから初めて追証の意味の説明を受けた。
3 原告は、同年二月四日、被告から、同年一月三一日現在において値洗い差金がマイナス一三四万四〇〇〇円である旨の残高照合通知書が郵送されてきたので、本件取引2の建玉について明確な回答を求めるため被告に出向き、Bに面会を求めたところ、Cが応対に出て、Bは退職した、これからは自分が担当する、Bから引き継ぎを受けていないのでそのいきさつはわからない旨繰り返すのみであり、更にCはこの対策としては二〇枚の買建をして両建にするのが最善の方法で、今後、追証もかからない旨勧めてきたので、原告はこれに応じることにした。
4 原告は、同月六日、Cから、電話で、「ニューヨーク綿花が連日ストップ高を続けているから絶対値は上がる。」「都築紡で四〇〇円でも五〇〇円でも買うと言っているので心配なく、何とか資金を都合して今日中に入金しなさい。」「この際七月限五〇枚の買を入れて、六月限二〇枚の買を入れて、六月限二〇枚の売建玉の値洗い損を稼ぎなさい。」などと勧誘し、原告は既に金一一〇万円の範囲を越えているので断り続けたが、絶対に儲かるという言葉を信用して承諾し、同日、原告宅を訪れたF及びCに本件取引4の資金が自宅の改築資金であることを説明した。
5 原告は、同月九日、Cから電話で手数料を引いても利が出るので一度利ぐいしたほうがよい旨強く勧誘を受けたので、追証の心配がありこれに反対したが、Cの断定的な言葉を信用して、これを承諾してしまい、更に、同月一二日Cから電話で「まだまだ値段が吹き上げるから、買を入れて両建にしなさい。」と勧誘されたので、被告に出向いて説明を求めたところ、「急反発で絶対相場の値段が暴騰して利がのるから買を建てなさい。」と一時間半以上に亘って執ように勧誘してきたので、追証がかかると困るし、右言葉を信用し、承諾した。その際、原告はCから退職金などの資金をきかれたので、金一五〇〇万円位だが、使用予定もあり、余裕はない旨答えた。
6 Cが、同月一五日、原告に対し、電話で「ニューヨーク綿花が大量取引のため、一四日の立会を停止しているので、七月限一〇〇枚の売を建玉にしておけば危険防止についても安全であり、値が下がれば利ぐいでも不利ではないので、ここでは是非資金の都合をつけて売を建てるべきだ。」と、本件取引4・6の両建を勧めたので、原告は「二月一三日に五〇枚を買建させておいてどういうことだ。」と抗議したものの本件取引4・6の建玉の値下りに不安を懐き、やむなく承諾し、その証拠金のため妹から金二五〇万円を借金した。
7 Cは同月一九日、原告に対し、電話で本件取引7の建玉の仕切りを執ように繰り返し勧誘し、原告は借金をしてまで本件取引4・6の両建として建玉したばかりで反対を続けたが、とうとう根負けして承諾した。
8 しかるにCは、同月二〇日、原告に対し電話で七日限一〇〇枚の売建を勧誘してきたので、原告は納得できず、被告に赴いたところ、Cは「ニューヨーク綿花がストップ安で相場を下げている。」「相場のグラフでは下げの線が出ているから、相場は下がって利が乗る。その点は絶対保証できる。」「三六五円以下には間違いなくなるから僕を信頼して下さい。」などと勧誘したので、原告はその言葉を信じ、また本件取引4・6の値下りに不安を懐き、やむなく承諾した。
9 更にCは、同年三月三日、原告に対し、電話で、「八月限新ポは値上り間違いないから一〇枚でも二〇枚でも買を建玉したらどうですか。」「僕の上司のDも、この際、借金してでも買に入れば絶対に損はないと言っている。」と強引に買建玉を勧誘してきたが、原告は、「自分には資金がない娘が信託銀行に預金しているが、本人の了解を得ないと借りられない。」と断ったものの、Cがなおも強引に勧誘してきたので、原告はとうとうその言葉を信じ、娘から金一三〇万円を借金することの了解を得て、今回限りの約束でやむなく承諾した。
10 原告は、同年四日、Cに電話し、本件取引4・5・6・9の各買建玉の仕切りを指示した。
11 Cは、同月五日、原告に対し、電話で、「八月限五〇枚を三九九円六〇銭で売建しました。」と連絡してきたので、原告は、「そんな勝手なことをしては困る、明日の前場一節にでも仕切って下さい。明日そちらへ出向いて無断建玉の理由をききます。」と伝え、翌同月六日、被告に出向き、Cに対し、本件取引10の無断建玉を追及すると、Cは今日の前場一節で仕切ったので許して下さいと謝ったうえ、強引に買を建てることを勧誘し、原告が反対したにもかかわらず、無断で買建玉をなし、そのうえ、原告を押さえ込むような形で、「まだ大きな吹き上げが来ますよ。だからこの際買を建てておきなさい。」「今は五一年のカナバタ相場以来の相場で、四一〇円や四二〇円までは行く。今までの上げ値以上の値上りは間違いないので是非買を入れなさい。」と執ような勧誘を二時間半ぐらいにわたって断定的・脅迫的言辞を用いて繰り返したため、原告は冠不全、自律神経失調症の治療中の身であることから精神的緊張、肉体的疲労の限界に達し、冷静な判断能力を全く喪失した状況でとうとう本件取引12・13の買建玉を承諾させられた。
12 Cは、同月七日、原告に対し、電話で「本件取引11がこのまま下がると追証がかかるので用意しておいて下さい。」と連絡してきたので、原告は「勝手に絶対上がると言って建てておいて、追証を用意せよとはどういうことですか。」と抗議すると、その後、再び電話があり、「このまま下がれば追証がかかるので、この際二〇枚の買を建てて下さい。本証拠金は明日の午前中までに入れていただけば結構です。」と勧誘してきたので、原告は追証がかかっては困ると思い、やむなく承諾し、妹からその資金の一部として金七〇万円を借金し、翌同月八日、被告に赴き、C、D、Fらに対し「Cだけでは危険極まりないからもう一人つけて欲しい。今までの目のまわるような建玉の仕方を改めて欲しい。」「家の改築のため、三月中には金四〇〇万円程度必要ですからその旨を十分留意して欲しい。」と申し出て、同人らの了承を得た。
13 しかるにCは、同月一一日、原告に対し、電話で、「本件取引11・14が今日の前場一節で三七五円まで下がってきたのでこれ以上下がると追証がかかるので、今月中に二〇枚を追加ナンピンで買建玉しておかないといけない。」「Dも自分と同意見なので、是非今日中に買建玉して欲しい。」と勧誘してきたので、原告は資金がないと言ったものの、追証がかかっては困るとやむなく承諾した。そして原告は右保証金全額金一三〇万円を妻の兄から無理を言って借用した。翌同月一二日、Cが原告に対し、電話で、「昨日買建玉したのが値上がりし、手数料を引いても損はない。」と仕切りを勧誘してきたので、原告は保証金全額が借金のため承諾したが、手数料を引くとわずか金四〇〇〇円の益金が出たのみであった。
14 Cは、同月一四日、原告に対し、電話で前場一節の七月限の値段が三七〇円七〇銭である旨連絡してきたので、原告はそれ以下の値段になったら本件取引8・8Aを全部仕切るよう指示したにもかかわらず、Cは、「損切りしてまで仕切る必要はない。」などといって仕切を拒否した。
15 続いて、Cは、同月一八日、原告に対し、電話で、「前より値段が下がっている。」「月末になると相場は上がるのがパターンとなっている」などと執ように買建玉を勧誘し、原告はこれを強く断ったものの、Cの強引な勧誘によりとうとう承諾してしまった。
16 続いて、Cは、同月二一日、原告に対し、電話で、「五〇枚の買を建てませんか。」などと勧誘したが、原告がこれを断ると、同月二四日、再び原告に電話で値段を報告してきたので、原告は、「明日の前場一節で本件取引11ないし14・16の買建玉全部を仕切って下さい。」と指示したにもかかわらず、Cは、「損切りしてまで建玉を縮める必要はない。」などといって仕切を拒否し、一方的に電話を切った。
17 ところが、Cは、同月二五日、原告に対し、電話で、本件取引16の仕切を勧誘してきたので、原告は借金の返済もあるので、仕切りを指示し、同日、再びCから電話で八月限二〇枚の買建を勧誘されたので、「絶対にしない。」と念を押したにもかかわらず、Cから電話で八月限二〇枚を後場二節で買建した旨の連絡を受けた。
18 その後、Cは、同月二七日、原告に対し、電話で本件取引8の仕切りを勧誘し、その理由としてこれが本件取引13の両建になって死玉になっているので、一〇〇枚のうち五〇枚を玉に活用した方が得策だとのことであるので、原告は同月一四日には仕切を拒否しておいて、それより高い値で仕切ることは反対であると言ったが、「Dも自分と同じ考えである。」と言うので、やむを得ず承諾した。
19 Cは、同日、再び、原告に対し、電話で、「前場一節で仕切った本件取引8の証拠金で、八月限五〇枚を売建しなさい。」と勧誘してきたので、原告はこれを強く拒否したにもかかわらず、その後Cは本件取引18の売建をした旨連絡をなしてきたので、原告は翌同月二八日、被告に赴きDに強く抗議したところ、翌同月二九日、Cから本件取引18を前場一節で仕切る旨の連絡があった。
20 更にCは、同月三一日、原告に対し、電話で、「四月一日からの新ポ物は値上がり間違いないから、売を整理して次の対応を考えるべきだ。」などと本件取引8Aの仕切を執ように勧誘してきたので、原告は値段が高いので反対したが、Dも自分と同じ意見だと勧誘してきたため、とうとう承諾させられたばかりでなく、同日、Cから電話で、八月限五〇枚を買建した旨の連絡を受けたので、無断建玉に怒り、翌日、被告に出向く旨伝え、翌同年四月一日、被告に赴き、Dに面会し、無断建玉を抗議したところ、前場二節で本件取引19が仕切られ、今後はDが担当する旨伝えられ、Dから、その後、本件取引17の仕切の報告があった。
21 原告は、同月四日、Dから、電話で「損切りすることないから七月限五〇枚を売建したらどうか。」との勧誘を受けたので、本件取引13・13Aの値下がりに対する危険防止のためこれを承諾し、また同月一二日、Dから九月限二〇枚の買建の勧誘を受けたので、本件取引11・14の値下がりの場合のことを考えて承諾した。
22 原告は、同月二八日、借金の返済の必要があるため、被告に本件取引21の仕切を委託し、同年五月七日、Eから、「Dが退職したので、今後は私が担当になるが、本件取引11・13・14についてこのままでは追証金がかかるがどうするか。」と連絡してきたので、やむなく本件取引20の仕切を委託し、同月九日、Eから、本件取引2・12についても同様のことを連絡してきたので、やむなく右各本件取引の仕切を委託し、同月一九日、被告に赴いたところ、Eから相場が下がっているので金二〇〇万円の追証金を用意するように言われたため、同月二一日、本件取引11・13・14の仕切及び四〇枚の両建として売玉をすることを指示した。その後、更に原告はEから金二〇〇万円の追証金を求められたので、同月二七日、本件取引22を仕切り、本件取引23の買建玉を指示し、同月二八日、値下りの連絡を受けたので、このままでは追証が必要になるため、やむなく本件取引13A・23の仕切を指示した。
六 以上のような本件取引の経過を見ると
1 原告は年金、退職金で生計を維持し、病気療養中の者で、商品取引の受託を勧誘してはならないのに、これを勧誘し、しかもBは、最初の勧誘の際、利益計算のみを強調し、委託証拠金についての説明を全くせず、本件取引は最低三か月の新規委託者について、取引開始後一か月で二〇〇枚、二か月で三〇〇枚の建玉をなしており、これらはいずれも取引所指示事項、新規取引不適格者参入防止協定、同保護管理協定に違反し、違法なものである。
2 また本件取引2・10・11・17ないし19の建玉は無断売買であり、本件4ないし6・8・9・12・13・16の建玉及び同8Aの仕切は断定的判断を原告に提供して売買させ商品取引所法、受託契約準則、取引所定款に反するもので違法といわざるを得ない。
3 更に、本件取引2と同3、同2と同5、同2と同12が両建にあたり、同3の仕切が両建利抜であり同4・6と同7、同4・6と同8・8A、同8・8Aと同13・13A、同13・13Aの内五〇枚と同20、同13Aと同22が両建で、同7の仕切が両建利抜にあたり、いずれも取引所指示事項に反し、違法である。
4 更に本件取引3の仕切と同5の建玉、同7の仕切と同8・8Aの建玉、同15の仕切と同16の建玉、同16の仕切と同17の建玉は無意味な反覆売買にあたり、取引所指示事項に反する。
5 更に本件取引においては担当者が転々と代り、それも原告に一言もないまま退職しており、委託者の利益を考えないものであり、また本件取引4・6の建玉は既に発生した損失を確実に取り戻すことを強調して執ように勧誘したものであり、いずれも取引所指示事項に反するものである。
6 更にCは、本件取引9の建玉の際原告に対し、「信託銀行なら九割まで借りられるので、そういう方法で融通してもらって買建すべきですよ。」などと述べ、取引所指示事項の融資の斡旋類似の行為をなし、借金までさせて取引をなさしめており、違法といわざるを得ない。
7 その他、前項のとおり、本件取引12・13は脅迫的勧誘、同8・8Aの仕切はDもCと同様の意見だと偽りを述べてなさせ、更にCは同年三月一四日に同8・8Aの仕切、同月二四日に同11ないし14・16の仕切を拒否しておりいずれも違法な行為といわざるを得ない。
8 以上のように原告の本件取引はB、C、D、Eの違法な勧誘行為、違法な売買取引によって、更にはFの違法な管理行為によってもたらされたもので、本件取引による損害について被告は民法七一五条一項により賠償する責任がある。
七 原告の損害は原告が被告に預託した金一九五五万八〇〇〇円から、原告が返還を受けた金二五〇万円を除く一七〇五万八〇〇〇円である。
八 よって原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、金一七〇五万八〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求の原因に対する認否)
一 請求の原因第一項は認める。
二 同第二項のうち、原告が郵便局会計課に四〇年間勤務していたことは認め、その余は知らない。
三 同第三項は認める。
四 同第四項は認める、但し委託証拠金の授受は本件受払一覧表のとおりであり、原告が昭和五五年四月三〇日に返還を受けた金額は金一九四万八〇〇〇円である。
五 同第五項については、原告が本件取引をなしたことは認めるが、B、C、D、E、Fの一連の行為が不法行為に該当するような行為をなしたことは否認する。
六 同第六項は争う。
原告は本件取引を開始するにあたって、Bから売買の損益計算法、委託証拠金について説明を受け、利益を追及する相場取引であることを充分に理解し、しかも原告は郵便局の経理関係、しかも最終的には統括的な仕事をしていた者で、原告は性格的にも几帳面で、一般社会人の平均的能力を超える理解力を有しており、本件取引3の両建をするについては、原告自ら取引所へ連絡し、両建の承諾をしており自己の責任と判断で本件取引をなしたものである。
七 同第七項は争う。本件取引は違法なものではなく、正当なもので、原告は、昭和五五年五月三〇日現在、本件受払一覧表記載のとおり、返還を受けるべき残金は金二八万円にすぎない。
第三証拠
証拠は本件記録中の証拠関係目録記載のとおりである。
理由
一 請求の原因第一項は当事者間に争いがない。
二 同第二項のうち、原告が郵便局会計課に四〇年間勤務していたことは当事者間に争いがなく、その余についてはいずれも成立に争いのない甲第一七号証の一・二及び原告本人尋問の結果によって認めることができ、右認定に反する証拠はない。
三 同第三項は当事者間に争いがない。
四 同第四項についても当事者間に争いがない。但し、委託証拠金の授受日について一部争いがあるが、本件請求の当否については直接関係ないので判断せず、また原告が被告から返還を受けた金額についても争いがあるが、この点は後に判断する。
五 同第五項については、原告が本件取引をなしたことは当事者間に争いがなく、その余についてはいずれも成立に争いのない甲第三、第一一、第三〇号証、乙第一ないし第四号証、第七ないし第二二号証、第二三号証の一・二、第二四ないし第二六号証、第二七号証の一・二、第二八号証の一ないし三、第二九ないし第三四号証、第三五ないし第三七号証の各一・二、第三八ないし第四四号証、原告本人尋問の結果によって真正に成立したと認められる甲第一、第二、第四号証、第九号証の一・二、第一〇、第二五、第二六号証、証人C、Dの各証言によって真正に成立したと認められる乙第五、第六号証の各一・二、証人C、D、F、Bの各証言(但し後記認定に反する部分は除く。)及び原告本人尋問の結果によればほぼ認めることができる。右各証言中には右認定に反する供述部分が存在するが、いずれも本件各取引の個々の具体的内容に触れるものが少く、前掲甲第一、第二号証及び原告本人尋問の結果に照して、右供述部分は信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
六1 同第六項1ないし5については前掲乙第二号証、いずれも成立に争いのない甲第一八、第一九号証によれば、取引所指示事項、新規取引不適格者参入防止協定、同保護管理協定及び商品取引法、受託契約準則、取引所定款に反することが認められ、これに前項の認定事実を加え判断すると原告の主張を認めることができる。また同項7は前項の認定事実によって認めることができるが、同項6についてはこれを認めるに足りる証拠はない。
確かに、前項掲記の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告が本件取引をなすにあたって、ある程度の自主的判断をもってこれをなしたことは否定できないが、本件取引の期間、頻度、数量などを考えると原告の自主的判断だけで本件取引をなしたものと認めるのは相当でなく、被告のB、Cらの従業員の違法行為によって本件取引がなされたものと考えるのが相当であり、他にこれを覆えすに足りる証拠がない以上、同項8を認めることができる。
2 しかしながら、前記判断によれば、原告の本件取引に対する自主的関与の度合、原告が本件取引について充分注意すれば、ある程度損害の発生、拡大を避けられたことなどの事情を考慮すれば、原告の過失が損害の発生、拡大について寄与したことは明らかであり、その割合は被告の従業員らの違法行為と同じものであると考えられ、五割であると認めることが相当である。
七 次に、同七項について検討するに原告の損害は、本件取引全体を不法行為と判断する以上、原告が現実に提供した金員を損害とすべきもので、取引によって生じた差益は損害とはなり得ないことは明らかで、損害は金一八九一万二〇〇〇円となる。
次に、原告が被告から返還を受けたのち、昭和五五年四月四日の金五〇万円の返還分については当事者間に争いがないが、同月三〇日の返還分については金額に争いがあるが、原告が被告よりも多額の金二〇〇万円の返還を受けたとして損害から控除している以上、金二〇〇万円を控除分と認めるのが相当である。
したがって、原告は被告に対し、右損害金一八九一万二〇〇〇円の五割にあたる金員から金二五〇万円を控除した金六九五万六〇〇〇円の請求権を有する。
八 よって原告の本訴請求のうち、右損害金六九五万六〇〇〇円及びこれに対する本件記録上訴状送達の日の翌日であることが明らかな昭和五五年一〇月二三日から右支払済まで年五分の割合による金員の支払を求める部分は理由があるので認容するが、その余の部分は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小松峻)
<以下省略>